ロードセルアンプの基本技術

 

 

今回は、ユニパルスの技術の根幹であるロードセルアンプの基本技術についてお話ししたいと思います。

 

40年以上前のこと、当時の最先端産業である造船関係の研究所からロードセルアンプの開発案件を受注しました。ロードセルを見るのも使うのも初めてでした。

 

金属に力がかかるとほんの僅かに変形します。その僅かな変形をひずみゲージの抵抗値の変化として電気信号に変換する装置がロードセルです。

 

当時、荷重の測定はバネの伸びを目盛から読んで測定していました。精度もいいかげんで高速な荷重変化の測定は無理。荷重を電気信号として取出すのも容易ではありませんでした。

 

ロードセルアンプを受注はしたものの、あまりに電気信号が微弱だったため、所定の精度を満たすために大変な苦労をしました。しかし最終的に出来上がったロードセルシステムは高速な荷重変化にも正確に追従しながら安定した測定ができる、当時としては素晴らしい性能のものになりました。

 

当時はまだ良いロードセル用アンプが世の中にありませんでした。もしも汎用的に使える高性能なロードセル用直流アンプができれば、工業用のはかりのほとんどがロードセルに置き換わっていくと確信しました。そこで、低ノイズで高安定なロードセル用直流アンプを量産すべく研究を開始しました。

 

研究を重ねるうち、トランジスタを使った直流増幅回路のあるパラメータを当時の常識からは大きく外れた使い方をすると、安定性もノイズも信じられないくらい良くなることを発見しました。この発見をベースにロードセル用アンプとしてモジュール化し量産したものが、Uアンプシリーズを始めとしたユニパルスのロードセル用プリアンプの基本回路のひとつになっています。

 

大半のロードセルにはひずみゲージが使われています。ひずみゲージは、図1のように、樹脂フィルム上に形成された厚さ2~5μm (0.002~0.005mm) の金属箔を、幅約10μm (0.01mm)、隙間が約30μm (0.03mm)程度の細い配線が並んだような構造となるようにパターニングしたものです。全体の抵抗値は120~2000Ω程度になります。

 

 

 

このようなひずみゲージを4枚1組として図2のように4組でホイートストンブリッジ回路を組んで、ブリッジの対辺に2.5~10Vの電圧VEを印加し、もう1組の対辺から出力電圧差VP - VNを取出します。

 

例えば、全てのゲージが同じ抵抗値を持っていると仮定し、ロードセルに力が加わったときにR1とR4に引張ひずみが、R2とR3には圧縮ひずみがかかるようにしておきます。引張ひずみがかかると、ひずみゲージの抵抗はわずかに大きくなり、一方、圧縮ひずみがかかると、ひずみゲージの抵抗はわずかに小さくなります。そのため、ロードセルに力が加わるとVPとVN電圧は互いに逆向きに変化し、その結果電圧差であるVP-VNが変化します。この変化量はもちろんロードセルにかかる力と印可電圧VEに比例します。

 

ロードセルに定格荷重をかけた時の出力はmV/Vで表しますが、これはVEを1Vあたりに換算して表示しています。

例えば、定格容量 1kNのロードセル(定格出力1mV/Vとします)に印可電圧VEを10Vかけたとします。この場合、1kNかけたときにVP - VNが10mV(0.01V)変化することになります。

 

10mVは電気信号としてはかなり小さな値です。ここから1/10000の分解能を出そうとすると、電圧の分解能は1μV(0.000001V)以下が必要となります。

この僅かな電圧変化を増幅して力の信号とするためには、ノイズレベルが非常に小さく安定性が高い直流増幅器が必要となります。

 

40年前には、安定性が高くノイズレベルが低い直流増幅器はまだありませんでした。安定性が悪く使い物にならない直流増幅器の代わりに、苦肉の策として交流増幅器が用いられていました。

 

交流増幅方式は、図2のVEを正弦波の交流信号に置き換えることで、交流の信号VP - VNが得られます。図3中の①で示した源信号にはアンプの不安定性によるドリフト成分が重畳しています。ドリフト成分は低周波信号なので、低周波成分をハイパスフィルターでカットすると図3中の②のようにドリフト成分がカットされ、交流信号成分のみになります。この信号を交流増幅した後(図3中の③)、この信号を整流し(図3中の④)平均化した信号(図3中の⑤)を使うと、ドリフト成の影響を除去することができます。ただし、交流信号を使うと、応答速度を高くすることが難しくなり、更に、ブリッジ回路の抵抗成分だけでなく静電容量成分もバランスさせる必要があり、回路も複雑な上に直線性も悪化してしまいます。

 

 

これに対しユニパルスが開発した直流アンプU300A(図4、U300AはU300を選別したハイグレード品)は、応答周波数30kHz、入力換算ノイズレベル0.2μVpp以下、ゲインドリフト3ppm/℃ typ. (5ppm/℃max.)、オフセットドリフト0.05μV/℃ typ. (0.1μV/℃max)という驚異的な性能のものでした。

 

 

U300の製品化によって、当時のロードセルアンプの欠点が払拭され、複雑、低速、低精度な交流アンプを使用する必要が無くなり、一気に高速・高安定なロードセル用直流増幅器が普及されました。

 

U300はディスクリート部品(個別のトランジスタやダイオード、抵抗、コンデンサなど)で構成されています。

一般的にアンプのノイズは、トランジスタ素子のサイズが大きいほど小さくなります。ディスクリートトランジスタのトランジスタ素子サイズは、現在主流のモノリシックアンプ(同一シリコン基板上に形成した回路要素を詰め込んだ集積回路アンプ)のトランジスタ素子よりも圧倒的に大きいため、ディスクリートトランジスタを使ったU300のノイズレベルはと比べて小さくなります。

 

図5にU300と現在入手可能な最もノイズが小さいクラスのモノリシック計装アンプのノイズレベルの実測値の比較を示します。

U300のノイズレベルほぼ平坦な波形でピークトゥピークで0.1μVであるのに対し、モノリシック計装アンプは不規則な波形で、ノイズのピークトゥピークはうねりを含んでいます。

U300のような波形ではデジタル処理でさらにノイズレベルを下げることが可能ですが、モノリシック計装アンプのようなうねりを伴った波形では、中心値がうねっているため、これ以上ノイズレベルを下げることは難しくなります。

このようなノイズは、指示値の最小桁がパラパラと変化するような結果をもたらします。

 

 

このような、高増幅度、低ノイズ、高安定なロードセルアンプ技術をベースに、ユニパルスでは充填計量や配合計量、チェッカースケール、定量供給など、正確かつ高速な重量計測技術を詰め込んだ、ウェイングインジケータ(計重指示計)という製品分野を世界で初めて確立しました。

また、圧入や加締め、プレス時の荷重変化から合否判定を行う高速応答を特徴として、波形比較機能などを盛り込んだデジタルインジケータ(荷重指示計)分野も開拓しました。

これらは業界のスタンダードとなり、広く産業界に貢献しています。

また、最近開発した電動バランサ:Moon Lifterの高容量タイプMLH-960KやMLH-1500Kなどにも、このアンプの技術が活用されています。

人の操作性を妨げない数百gf程度の操作力は定格荷重の0.02%程度でしかなく、ロードセルの分解能と安定性がキーポイントになっており、当社のアンプがあってこそ実現できた高容量電動バランサです。


電動バランサ Moon Lifter MLH 480kgタイプと960kgタイプには、ロードセルアンプ U300が内蔵されています
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